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Lil’Fairy Original Novel:04

「星に願いを」

著者:空歩人


満月。
輝くまんまるい月が夜空に浮かんでいる。
プリミューレ妖精協会の建物にある屋上で、執事のヴィスマルク、お掃除の妖精であるエルノ、リプー、そしてヴェルの三人娘は中秋の名月を楽しんでいた。
「見事だな……。どんなに忙しい日だったとしても、ほんの僅かでも夜空に輝く月や星を眺められるような心のゆとりを持つことは大切なんだよ」
「そうですよね……」
エルノは初老紳士の言葉を噛みしめるように頷いた。
「お月様ではうさぎさんがお餅をついているって本当かな?」
リプーがお月見団子を頬張りながら呟やいた。
「そのお話、聞いたことあるわ。日本の人たちが言うのよね。でも、世界各国で解釈が違うみたいよ」
ヴェルが答える。
「どういうこと?」
「南ヨーロッパでは大きなはさみのカニに見えたり、カナダの先住民たちにはバケツを運ぶ少女に見えたりするみたい。アラビアでなんかだと、大きな口を開けて吠えるライオンに見えるんだって」
「うわ。それ、怖いな。わたし、お月様には行きたくないです……」
リプーは思わず目をつぶった。
その様子にエルノとヴェルが笑った。
「あくまで古くからの言い伝えじゃない。本当に月にライオンがいるわけじゃないよ」
ヴェルは怯えるリプーをたしなめた。
「なぁーんだ。そうなんですね」
その時、「あ、流れ星!」と、エルノが東の空を指差して叫んだ。
「え?」
「どこ?」
「ほら、あそこ!」

エルノが指差す方向には夜空をさっと流れる一筋の光が見えた。だが、ほんの一瞬で消えてしまった。
「ああ、消えちゃった……」
「残念です」
がっかりするリプーとヴェル。
「なーに、こんなに空が澄んでいるんだから、きっとすぐにまた現れるはずだ」
ヴィスマルクは二人を慰めた。
すると、その言葉を夜空が聞いていたかのように、再び東の空に流れ星が現れた。
「ほら!」
「うわぁ、キレイ!」
「すごーい!」
三人は夜空からの素敵な贈り物に喜んだ。
「ねぇ、ちゃんとお願いごと、した?」
エルノが二人に尋ねる。
「もちろん!」
Vサインで答えるヴェル。
「リプーは?」
「お願いごとって、何?」
「え?」
「まさか……リプー、知らないの?」
ヴェルは驚いた。
「わたし、何か損してる?」
「損ってわけではないけど……」
「そうだね。損ってわけじゃないが、覚えておいた方がいいかもしれないな」
それまで三人のやりとりを聞いていたヴィスマルクが口を開いた。
「いつの時代からかある、人間たちの言い伝えなのさ。ひとつの流れ星が見えている間にお願いごとを三回唱える。そうすると、その願いが叶うと言われているんだよ」
「そうだったんですね!」
「まぁ、この話が本当かどうかは定かではないんだ。流れ星っていうのは、昔は説明がつかない不思議な現象だったから。しかも、見えているのはほんの数秒でしかない。もしそんな珍しいできごとが起きている僅かな時間で、とっさに出てくるほど心の中で強く意識していられるものを持っているなら、その人はきっと目的を叶えられるだろうという話なんだよ」
「へぇ~」
手を胸の前に組みながら、しきりに感心するリプー。
「なるほど。流れ星にお願いを叶えてもらうという他力本願的なことではなく、自分自身の意志を確認するようなことなのですね」
エルノは深く納得したように頷いた。
「じゃあ、美味しいチョコがたくさん食べられますように!って、お願いしたわたしの意志はチョコレートとともにあるというわけなの?」
ヴェルが苦笑いする。
「だって、ヴェルちゃんのポケットにはいつもチョコが入っているもんね」
リプーの言葉に一同は大笑いした。
「もう、リプー!」
ヴェルは唇を尖らせた。
「それだけ心底好きって、すごいことだと思うな。ヴェルにチョコレートを語らせたら右に出る者はいないもの」
エルノがフォローを入れる。
「まったく、上手いこと言っちゃって。そういうエルノは何をお願いしたの?」
ヴェルはエルノに問いかけた。
「わたくし? それは内緒よ。誰かに話してしまうと、その願いが叶わなくなるかもしれないでしょう」
「わたしは教えたのに、ずるいなあ」
ヴェルが頬を膨らませる。
「まぁまぁ、ヴェル。いいじゃないか。願いの内容はみんなそれぞれ。きっとエルノはロマンチックなお願いでもしたんだろう」
ヴィスマルクが間に割って入った。
「えー。そんなの、つまらない。じゃあ、代わりにヴィスマルクさんが何をお願いしたのか聞かせてくださいよ」
「それは……」
反射的に即時、熱いお風呂に入りたいと願ってしまっただなんて、あまりにも夢がなさすぎるというか、ジジくさい気がするので、間違ってもそんなことは言えないヴィスマルクなのであった。